自転車と歩行者による事故の現状と原因
なかなか減らない自転車と歩行者による事故の原因について、わかりやすく解説します。
自転車事故の現状
警視庁の統計によると自転車関連の事故は減少傾向ですが、交通事故の約2割を占めており、2020年は6万7673件起きています。19歳以下の事故件数は全体の38%(2017年統計)に上ることから、未成年者が当事者になるケースが多いといえます。また、自転車間の車両事故は減少していますが、自転車と歩行者の事故の発生件数はほぼ横ばいで、毎年2500件前後起きています。
自転車事故の主な原因はルール違反
自転車と歩行者の事故の発生状況としては「横断中」が最も多く、2番目に多いのが「対面通行中」、3番目は「背面通行中」です。主な原因は、急な進路変更時などの安全不確認、一時停止無視や交差点での左右不確認、信号無視など。交通ルールの理解不足や軽視、違反によって大半の事故が起きているのです。
歩道上での自転車事故の責任は100%自転車側にある
信号機のない交差点で自転車と歩行者の事故が起きた場合、責任の割合(過失割合)は「自転車:85」「歩行者:15」。自転車側に大きな責任が課せられます。歩道上においては、基本的に自転車側が100%の責任を負うことになります。また、自転車と歩行者の事故の場合、自転車側には刑事上と民事上の2つの責任が問われることになります。
刑事上の責任
刑事上の責任とは、自分が犯した法律違反に対して刑罰を受けることです。自転車事故の刑罰には、不注意により相手にケガを負わせた「過失傷害罪」、不注意により相手を死亡させた「過失致死罪」、重大な不注意により相手を死傷させた「重過失致死傷罪」などがあります。それぞれ、懲役や禁錮、罰金といった処罰が課せられます。
民事上の責任
民事上の責任とは、民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に従って、被害者に与えた人身損害や物損を賠償する責任です。たとえ自転車事故であっても、被害者を死亡させたり後遺障害を負わせてしまったりした場合、賠償額は高額になります。
自転車と歩行者の事故では過失割合が適用される
賠償内容にも影響する過失割合について、わかりやすく解説します。
過失割合とは?
過失割合とは、加害者と被害者の過失(不注意)の割合です。被害者にも不注意があった場合、加害者が全ての責任を負うのは公平ではありません。そこで双方の不注意の割合を出し、加害者の責任の重さを決めます。加害者はこの過失割合に応じた賠償金を支払います。
過失割合は当事者同士の話し合いで決まる
過失割合は、当事者同士の話し合いで決めるのが一般的です。具体的には、過去の裁判例や書籍『別冊判例タイムズ』の検討すべきポイントを参考にして、妥当な割合を考えていきます。例えば、「現場は歩道か車道か?」「衝突した方向は?」「速度は?」「飛び出したのか?」「一時停止はしたか?」など。事故のさまざまな状況によって過失割合は変わってきます。
自転車と歩行者の事故における過失割合の基本例
事故例ごとに過失割合の基準があり、そこに修正要素が付加されることを解説します。
歩道内での事故例
歩道にて、自転車が歩行者の後ろから走行し、追い越し時に事故を起こした場合【追突ケース】と、双方が向かい合って進行した結果衝突した場合【正面衝突ケース】の過失割合を見ていきます。
歩道は、基本的に自転車の通行は認められていません。そのため、原則として歩行者の過失は0(ゼロ)になります。ただし今回の【正面衝突ケース】では、歩行者が前方を見ずに手元のスマートフォンを見ながら蛇行していました。そのため歩行者の過失割合が10となりました。
事故の状況 |
過失割合 |
自転車 |
歩行者 |
追突ケース |
100 |
0 |
正面衝突ケース |
90 |
10 |
信号機のない横断歩道での事故例
信号機のない横断歩道にて、自転車が歩行者に接触した場合【横断歩道・接触ケース】と、自転車横断帯内で自転車と歩行者が接触した場合【自転車横断帯内・正面衝突ケース】の過失割合を見ていきます。
横断歩道における自転車と歩行者の事故では、原則として歩行者の過失は0(ゼロ)です。ただし自転車横断帯内を歩いていた歩行者には過失があります。
事故の状況 |
過失割合 |
自転車 |
歩行者 |
横断歩道・接触ケース |
100 |
0 |
自転車横断帯内・正面衝突ケース |
95 |
5 |
※参考:交通事故損害額算定基準 (財)日弁連交通事故相談センター
信号機のある交差点での事故例
信号機のある交差点にて、自転車・歩行者ともに直進の場合は、信号機の色を守っていたかどうかによって過失割合が大きく変わります。それぞれのケースを見てきます。
事故の状況 |
過失割合 |
自転車 |
歩行者 |
自転車が「赤」で進入、歩行者が「青」で進入 |
100 |
0 |
自転車が「赤」で進入、歩行者が「黄」で横断開始 |
85 |
15 |
自転車が「赤」で進入、歩行者が「赤」で横断開始 |
75 |
25 |
自転車が「黄」で進入、歩行者が「赤」で横断開始 |
40 |
60 |
自転車が「青」で進入、歩行者が「赤」で横断開始 |
20 |
80 |
自転車と歩行者の事故が発生したらまずやること
自転車と歩行者の事故の当事者になってしまった時の対応を、順を追って解説します。
1.ケガした人と自分の安全を確保する
相手と自分の安全確保が最優先です。ケガしている場合は状況に応じて救急車を呼び、応急手当・救命措置を行います。また、交通量の多い道路などの場合は、二次災害を防ぐために安全な場所へ移動させることも必要です。ただし、頭や胸をうっている場合や意識がない場合は、むやみに動かさないように気を付けましょう。また、見た目が軽傷であっても、病院で診察を受けるようにしてください。
2.警察に連絡する
必ず警察に連絡し、事故を届け出ます。警察の現場確認によって発行される「交通事故証明書」が、保険金の請求時に必要になります。軽い事故の場合、相手から「警察に連絡せず、話し合いで解決しましょう」と提案されるかもしれません。その時は断り、警察に連絡しましょう。示談に応じてしまうと、後日現われた身体の痛みに対する保障が受けられなくなるなど、トラブルの原因になるからです。
3.損害保険会社に連絡する
事故の初期対応(上記の1と2の項目)が落ち着いたら、損害保険に加入している場合は連絡し、発生の日時や場所、事故の概要を報告します。後日、保険金を請求する際には、警察から発行される交通事故証明書の提出が必要になります。なお、損害保険会社への連絡はできるだけ早く行いましょう。なぜなら、自分が被害者であっても、過失割合によって自分の保険を利用しなければならなくなる場合があるからです。
自転車と歩行者の事故で気を付けるべきポイント
自転車と歩行者の事故で気を付けるべきポイントについて、わかりやすく解説します。
中学生以上であれば事故の損害賠償が命じられる
未成年者(20歳未満。2022年4月1日からは18歳未満)は、大人に比べて責任ある行動がとれないものです。そこで民法では、加害者の未成年者が“責任能力を備えている”場合のみ責任を負わせると定め、未成年者を保護しています。一般的に“責任能力を備えていない”と判断されるのは、12歳未満。つまり中学生以上からは、事故の損害賠償義務を自ら負うことになります。なお、“責任能力を備えていない”場合は、保護者が責任を負う可能性があります。
必ず警察に連絡する
事故の当事者になったら、事故の大小にかかわらず、必ず警察に連絡しましょう。前述しましたが、警察が発行する交通事故証明書がなくては、保険金の請求ができません。なお連絡をしないと、道路交通法の「報告義務違反」となり、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金刑が課せられます。
保険に未加入の場合は示談交渉がこじれる可能性がある
自転車事故の場合、保険に未加入であることも少なくありません。未加入の場合、当事者同士の話し合いによって適正な過失割合や賠償金額を算出しなければなりませんが、うまくいかないことも多いです。また、相手が示談に応じてくれない場合もあります。事故の大きさや多額な損害賠償が発生するようなケースは、弁護士に相談した方が良いでしょう。
自転車保険に加入しておくことがおすすめ
保険未加入の場合、全て自費で損害賠償しなければなりません。その賠償金額は、相手が死亡したり後遺障害が残ってしまったりした場合には何千万~1億円程度になることもあります。被害者が十分な保障を受けられるように、また加害者の経済的負担軽減を目的に、自転車保険の加入を義務付ける都道府県も増えています。
【参考】守るべき自転車の交通ルール
過失割合にも大きく関係する自転車の交通ルールは、「自転車安全利用五則」(内閣府の交通対策本部により平成19年7月10日に決定)にまとめられています。その中でも、特に重要な5つのルールと、それ以外のルールについて解説します。
自転車は、車道を通行する必要がある
道路交通法上、自転車は軽車両に含まれます。車道と歩道の区別があるところでは、車道通行が原則です。なお「歩道を通行できる道路標識がある場合」「13歳未満の子ども、70歳以上の高齢者」「車道通行に支障がある身体障害者」「安全上必要がある場合」は、例外として歩道を通行できます。
自転車は、道路の左側を通行する必要がある
自転車は自動車と同様に、道路(車道)の進行方向左側に寄って通行しなければなりません。進行方向右側を走行することは交通ルール違反です。
歩道は歩行者を優先させる必要がある
前項目の「例外」で歩道通行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければなりません。また、歩行者の通行を妨げるような場合は、一時停止が必要です。
最低限の安全ルールを守る必要がある
飲酒運転や二人乗り、並進(並んで走行すること)は、禁止されています。また、夜間のライト点灯、信号機に従うこと、交差点での一時停止・安全確認は、最低限の安全ルールです。
幼児・児童はヘルメットを着用する必要がある
保護者は自身が運転する自転車(のチャイルドシート)に、児童・幼児(13歳未満)を乗せる時には、ヘルメットを着用させるように努めなければなりません。また、児童・幼児が自分で自転車を運転する時も同様です。
自転車に関わるそのほかのルール
・道路外に出るため左折する時は、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、徐行しなければならない。
・道路を右側に出ようとする場合でも、道路の中央を通行してはならない。
・自転車横断帯の付近では、その自転車横断帯によって道路を横断しなければならない。
・みだりに(急に)進路を変更してはならない。
・踏切を通過する時は、踏切前で停止し、安全を確認しなければならない。
・道路標識がある場合のほか、左右の見通しがきかない交差点などを通行する時は、徐行しなければならない。
・左右の見通しのきかない交差点や曲がり角などを通行する時は、ベル(警音器)を鳴らさなければならない。
・前輪および後輪にブレーキを備え付けていない自転車を運転してはならない。
・携帯電話・スマートフォンのながら運転や傘差し運転などによる片手での運転はしてはならない。
・交通事故に遭った時は、直ちに負傷者を救護して、危険を防止するなどの必要な措置を講じなければならない。また、警察に事故の連絡をしなくてはならない。
まとめ
自転車は、便利で多くの人が利用している交通手段ですが、同時に誰もが交通事故の当事者になり得ることもわかっていただけたかと思います。当記事で解説してきた、自転車と歩行者の事故における責任の所在や事故後の流れ・注意点・守るべき交通ルールなどを参考に、まずは当事者にならないよう努めましょう。また、万が一のために、自転車保険やそれに類する保障のある共済の利用を検討するのもおすすめです。
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